京急の鉄道模型を作っているとき書くよ。 面白い床下機器を見つけたとき載せるよ。 東杏電機製造(トウキョウデンキセイゾウ)のお知らせをするよ。
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受給電とは、車両編成中の補助電源装置=静止型インバータ(SIV)が故障して三相の低圧電源が得られなくなったユニットに対して、健全側のユニット側から給電を延長する方法で、最低限の車両機能を確保する機能です。
三相交流は電動空気圧縮機(CP)や電灯,冷房機など、それなりに必要な機器類の電源であるため、営業中突然の停電状態に対して応急処置的に復旧する手段が用意されているわけです。

新鋭の新1000形22次車8連の17011編成をいろいろ調べてみましたところ、どうやらこの受給電機能を持たないようです。
従来までのクルマの受給電システムの概要説明と、22次車8Vの低圧電源回路について考察してみました。



◆ 受給電について

受給電とは本記事冒頭にて述べたとおり、ユニット間で三相交流の低圧電源を融通する機能です。
8両編成中にSIVを2台持つ2100形を例に、編成中の給電関係のイメージ図を書いてみました。

まずは健全時

3号車と7号車のTp形車両を見ると、架線から取り込んだ電力は、SIVにて三相交流440Vへ変換しています。
また2号車と6号車のT形では、RDで変圧して三相100Vを、更に整流し直流100Vを得ています。
これら低圧電源は、編成中央の4号車と5号車との間で途切れています。
但し三相440Vのみ、受給電接触器箱(SDC)で導通を可能とする回路ですが、通常時は接触器が開いており絶縁されています。

7号車のSIVが故障した場合の電源の状況です。

直流電車の車上において、交流電源を得る方法はSIVが唯一です。
7号車のSIVから給電を受けていた5~8号車は三相2系統が停電となります。
なお直流100Vは6号車に蓄電池(SB)を搭載しているので、数時間程度は蓄電分が使えます。

ここで、受給電の操作を行いSDCを励磁しましょう。

3号車のSIVから供給される三相440Vが、SDCを経て5~8号車まで給電されるようになりました。
6号車のRDは三相440Vを電源とするので、三相100Vも復活し、直流100Vも電圧と蓄電量が維持されます。


このSDCによる受給電の開始ですが、多くの京急車の特徴として、乗務員による手動のタンブラースイッチ(TBS)操作が必要な点が挙げられます。
停電を検出して接点を切り替える回路の実装は一見簡単そうですが、京急車ではTBSを操作するまで停電が解消されません。
600形で一旦は自動化したところ、2100形以降で再び手動に戻しているので、謎のこだわりがあるポイントのようです。

話を受給電の操作に戻します。
操作が必要な編成の乗務員室には、空調操作箱の表面に説明書きが掲出されています。

操作に関する部分を要約すると、下記いずれかとなります。
>①故障したSIVを搭載する車両の床下にあるTBSを「故障」側へ
>②故障したSIVを搭載する車両の車内妻面にあるTBSを「故障」側へ

なるほど、確認しましょう。

①の床下スイッチは、SIV搭載車両の山側品川寄の隅についています。
小箱が2個ありますね。

左の箱の銘板が「受給電指令」なので、こちらが目当てのものです。
右はパンタ上げるやつで無関係。

②の車内妻面も品川方です。

海側のキセ(カバー)をよく見てみますと、

チャーミングな「受給電指令」銘板がついていました。

SIVが故障して受給電する際、乗務員氏はこれら標示や銘板を確認しながら必要な操作を行うわけですね。



◆ 新1000形22次車8連は受給電できるか

さてここからが本題です。以上は私的にはぜんぶ前座です。
新1000形は20次車から待機二重系のSIVを採用しています。
簡単に言うと、1台のSIV内で故障しやすい部分を二重に搭載してて、一群が壊れたらもう一群へ即座に切り替わりますよーってやつです。
つよい。

まぁその代わりメチャメチャでかいんですけど。
この4Vと8Vが搭載する東芝製INV207-G0形SIVは長手方向は2800mmほどあり、ぶっちぎりで床下最大です。
当然質量も嵩んで900kg近くあり、輪重バランスとるため中央台枠の前後中心に吊られてます。


さて、このSIVを編成中に2台搭載した22次車8Vは受給電機能を持つでしょうか?

乗務員室の空調操作箱には説明書きのプレートがありません。


SIV搭載車両の床下山側品川寄にTBSの小箱なし。


同じくSIV搭載車両の車内妻面キセに銘板なし。


更に、事前の床下機器艤装調査にてSDCが搭載されていないことを確認済。
これら状況を総合して、新1000形22次車8連(1700番台)は受給電機能を持たないと判断されます。

・・・まぁ当然っちゃ当然なんですが、SIVが待機二重系なので。


22次車8連の給電関係を図にすると下記となります。

健全時はSIV共にいずれか片群が運転しており、三相440Vを供給します。

7号車のSIVの第1群が故障した場合、

一時的に4~8号車の三相が停電します。

但し故障したSIVは即座に待機側の群の運転を開始します。

故障側のSIV内部で全て完結した応急処置が実現します。
もちろん自動です
以上の待機二重系SIVの機能のため、低圧電源回路としての受給電機能は不要と判断され、22次車では廃止されたと考えられます。

えーつまり、本章の冒頭の問「22次車8連は受給電できるか」に対する答は「受給電はできないがSIVが自力で停電復旧できる」となります。



ちなみに、これらの図を書いてて気付いたんですが。

こんな感じで、パンタやらIVFやらIVHBやら、SIV自身でどうにもできない部分とか二重化してない部分が故障する事例だったら応急処置無理ですね。
受給電回路あれば健全側から給電出来たのですが。

まぁ故障モードなんて想定し始めたらキリがありませんし、経験豊富な事業者さんとメーカさんが決めたシステムなので、きっと現状が一番バランス良いのでしょう。




電車は編成が長くなるほどシステムとして複雑で面白くなるので、17011編成は他にも見たい部分がたくさんです。
今のところ早朝か夕ラッシュばかりの限られた運用で、なかなかディティールを収集しにくいところがもどかしいですが、また面白いことが分かったらちょっとずつ記事にまとめていきたいと思います。
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RDと整流装置の違いについて
いつもわかりやすい解説で楽しく拝見しております。
受給電の図で疑問があります。
SIVから低圧へ枝分かれをしている「RD」、ステンレス車は「整流装置」ですがそれぞれの役割・機能は一緒なのでしょうか?
1500形や600形に搭載されている「IVT」との違いなどはあるのでしょうか?
形式によって名称が異なるのが不思議に感じ、コメントさせていただきました。
初歩的なご質問で申し訳ありません。ご教授いただけましたら幸いです。
よろしくお願いいたします。
pon223 2024/01/22(Mon)21:57:56 編集
Re:RDと整流装置の違いについて
ご質問ありがとうございます。
「RD」「整流装置」「IVT」の区別について、一部推定を含みますがざっくり説明します。

まず前提として、静止型インバータ方式での補助電源システムは、高速度遮断器(IVHB or IVC)より下流側にて、大まかに下記素子や機器によって構成されています。
①フィルタリアクトル
②三相インバータ
③絶縁トランス → 三相440V(or200V)AC電源へ
④変圧トランス → 三相100VAC電源へ
⑤ダイオードブリッジ → 蓄電池100VDC電源へ

これら素子のうち、クルマの世代と機器名称ごとに、下記対照のとおり納められていると推定されます。
【1500形/600形1~3次】
SIV:②, IVT:①③④⑤
【600形4次,2100形,新1000形4V2~5次】
SIV:①②, IVT③, RD:④⑤
【新1000形8V1~5次,新1000形4V1次】
SIV:①②, IVT・RD:③④⑤
【新1000形6次~22次】
SIV:②, リアクトル・トランス箱:①③, 整流装置:④⑤
【2024/02/17 14:52】
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